トンガの休日


　　　　　旅立ちへのプロローグ

　　　　　今の時代は忙しい。
　　　　　大人も子供も忙しい。

　　　　　日本中の人間が、得体の知れない不安怪獣に
　　　　　おびやかされて走り回っているからだ。

　　　　　何をそんなにセカセカと、急ぐことがあるのだろう？

　　　　　不安怪獣の正体はなに？
　　　　　走って走って、行き着く先のゴールはどこ？
　　　　　そしてそこには何がある？

　　　　　分からない…、考えている時間はないのだから…。
　　　　　心は不安に満ちている。
　　　　　だから駆け出さずにはいられない。

　　　　　子供たちは
　　　　　大地を自由に駆けめぐる喜びも知らないままに、
　　　　　大人達のあやつり人形になっている。

　　　　　しかも、そのあやつり人形師たちときたら…
　　　　　手元がフラフラ揺れて、
　　　　　目付きがキョロキョロ定まらず、
　　　　　そしてセリフはその場限りの有様という具合。

　　　　　立ち止まりもせず、
　　　　　自転車のペダルを踏み続けて、
　　　　　一体どこへ行くのだろう。

　　　　　切り刻まれた時間の中で、
　　　　　走り続ける暮らしの中で、
　　　　　一体何が残るのか？

　　　　　立ちどまってみないか？
　　　　　風に吹かれ、草の息吹を感じながら、
　　　　　大地を踏みしめて歩いてみないか？

　　　　　悠々と限りなく流れていく時を、今を、
　　　　　しっかりと抱きしめてみないか？

　　　　　そして自分自身と語り合ってみないか？。

〈目次〉