新井白石『西洋紀聞』、勝海舟『氷川清話』、中江兆民
『三酔人経綸問答』などを題材に、日本人としての自己
識の上に立って諸国の人々と対等に付き合う近代精神を
ぶ。「グローバル化」の波の中で見失ってはならないもの。
新井白石『西洋紀聞』、勝海舟『氷川清話』、中江兆民
『三酔人経綸問答』などを題材に、日本人としての自己
識の上に立って諸国の人々と対等に付き合う近代精神を
ぶ。「グローバル化」の波の中で見失ってはならないもの。
序 章 日本の国際化
日本は国際化したのか／国際化の定義／何を国際化するのか／ケーベル博士の懸念／西洋流は文明の象徴か／遠藤周作の疑問／観光地の日本人旅行者／外国で日本を知る／ロンドンの漱石／違いに気付く／場所の感覚／他者感覚／中華の感覚／身体で覚えた伝統／人間全体の教養／文化の歴史的持続／伝統文化への関心／自己認識が国際化の前提
第一章 『蘭学事始』―杉田玄白
吉宗の命令でオランダ語学習／前野良沢／外国語学習の難しさ／横文字学習の許可願い／舶来の珍器／オランダ人を驚かした平賀源内／非常の人／ターヘル・アナトミア／蘭書の翻訳を決意／櫓舵なき船／『解体新書』の出版／回想記の執筆／ロシアにも名を知られた桂川甫周／蘭已に東せり
コラム――蘭学とは／翻訳、対訳、直訳、義訳
第二章 『西洋紀聞』―新井白石
ことばも聞きわかつべからず／ロウマ切支丹宗門之師／偉大な百科全書的文化人／番夷一人とゞまる／鳥語牛鳴にあらず／人間どうしの触れあい／来れる事の由を問う／形而下の学問／布教は侵略のためではない／国を誤るはその人による／禁教は過防にあらず／処置三策を建議／一生の奇会／大きにする事ある人／和文叙事体の絶妙なるもの／外国語のカタカナ表記／明暦の大火の後に誕生／『翁問答』を読む
コラム――ベンガラ・カボチャ
第三章 『氷川清話』―勝海舟
海舟座談の成立／版を重ぬること十有余版／「正心誠意」の四字／共通の大前提／知行合一／貧富強弱によって手加減／海舟の中国観／悪獣狩りの戦争／ロシア軍艦の対馬上陸／憐れ救うべからざる状態／ペリー艦隊の来航／剣術と禅の修業／オランダ語の学習／蘭和辞書を写す／佐久間象山との出会い／幕府に『海防意見書』／咸臨丸船中の勝／坂本龍馬の登場／西郷との出会い／小楠の富国強兵論／江戸城明け渡し
コラム――『瘠我慢の説』／貧乏侍の住まい
第四章 『福翁自伝』―福沢諭吉
日出る処の天子／『文明論之概略』／西洋の「文明の精神」／朝鮮は半開なり／脅迫主義のすすめ／新渡戸稲造の『武士道』／夏目漱石の神経衰弱／自己本位／門閥制度は親の敵／読書は十四五から／自伝文学の傑作／洋学に志す／緒方塾に入門／緒方塾での学習方法／写本のアルバイト／江戸に出て英語に転向／初めて米国に渡る／遣欧使節に参加
コラム――ベストセラー出版社「福沢諭吉」
第五章 『三酔人経綸問答』―中江兆民
民権運動の衰退と対外強硬論／洋学紳士の非武装論／民主制度は平和をもたらす／日本国憲法の戦争放棄／自衛権も放棄／豪傑君の現実論／大陸の半ばを割く／恋旧元素は邦国の癌腫／倶に現在に益す可らず／戦争を恐れて戦端を開く／南海先生は兆民か／兆民の外にあらわれた姿／現在の日本も『三酔人』の枠のなか／秋水の『兆民先生』／長崎に留学／フランス留学／専ら哲学・史学・文学を研鑽／帰国して『民約論』を翻訳
コラム――中国と支那／原典を読む
著者略歴
山田侑平（やまだ・ゆうへい）
人間総合科学大学専任講師。東京外国語大学中国語科卒業。通信社記者として国際ニュースを取材、編集。ロサンゼルス、ニューヨーク、ブリュッセルに駐在中は米国の政治・経済・社会、国連、欧州連合（ＥＵ），北大西洋条約機構（ＮＡＴＯ）などを担当取材した。著訳書に『新聞で学ぶ現代英語』（わらび書房）、『時事英語情報辞典』（共著、研究社出版）、『スヌーピーの英語辞典』（角川書店）、シャルル・ベトレーム『毛沢東に背いた中国』（日中出版）、ローリー・リー『スペイン放浪記』（連合出版）など。
本書はもとをただせば通信教育用の教科書として書かれたものです。私学として初めての通信制専門大学、人間総合科学大学が二〇〇〇年四月に岩槻市に開校し、そこで「日本の国際化」なる科目を受け持つことになったからです。もっと現代的な事象を取り上げながら、いまや日常語になったグローバリゼーションなどの問題を検討する科目だと思った受講者も多かったようですが、敢えてこのような内容にしたのは、国際社会との交渉がますます深まるなかで、出発点に立ち返って「日本の国際化」をわれわれ一人ひとりの問題として改めて考えてみるのもむだではない、と思ったからです。
新聞をみるかぎりでは、あまり評判のよくない日本政府の諸外国への対応はしばらくおいて、われわれが海外で個人として外国人と接し、あるいは国内で文化や習慣を異にする人びとと付き合う場面を考えても、なにかものたりなさを覚える人が少なくないはずです。そこで思い立ったのが、その昔、初めて外国と接した時、先人たちはどのような態度で臨んだのか、それを振り返りながら、国際化を国や政府の問題ではなく、自分自身の個人的な問題として、初めから検討し直すことでした。
幸いにして、われわれが国際化するためには、外国語に飛び付いたり、外国の事情を聞きかじったりする前に、まづ自己を確立して、自国の文化を主張しつつ（ということは違った文化をも認めつつ）相手と対等に付き合う必要がある、という結論を多くの受講生と確認し合うことができました。
本書のもう一つの目的、というよりも主たる目的は、受験対策のために無味乾燥な名前や事項だけを器用に覚えながら、具体的内容とは無縁のままになっている「過去の豊富な人物」を、手軽に入手できる書物を通じて「生きて血の通っている人物として」（森銑三）知ってもらうことでした。「読んでみたら意外と面白かった」という人がたくさんいたことはなによりの喜びでした。その意味では、本書は一つの読書の手引きだともいえます。『福翁自伝』のあと教科書を投げ出して『文明論之概略』を読むことにしたとか、『蘭学事始』で杉田玄白よりも平賀源内が面白くなり、道草を食ってしまったとかいう学生には大いに意を強くしました。
生涯学習などの掛け声もよく耳にしますが、その気になれば学ぶ機会はどこにでもあります。夏目漱石はロンドン留学中、ドイツにいる藤代禎輔への手紙に「大学も此正月から御免蒙った往復の時間と待合せの時間と教師のいふ事と三つを合して考へて見ると行のは愚だよ夫に月謝抔を払ふなら猶々愚だ夫で書物を買ふ方が好い然も其Ｐｒｏｆ．がいけすかない奴と来たら猶々愚だよ」（明治三十四年二月五日）と書いています。本書を作るにあたってこの言葉が念頭になかったとはいえません。
屋下に屋を架すようなことをしながら、矛盾を承知でいえば、本書が目指したのは国際化の出発点を探すことのほか、最後に引いた宣長の言葉にあるように、先人の「思へる心、なせる事（わざ）をしりて、その世の有りさまを、まさしくしる」ために、それと「相かなひて似たる」言（ことば）に直に接する読書習慣をつけることです。
（以下､謝辞）