アンコール・ワットと私

石澤良昭著

人々を魅了してやまないアンコール遺跡群。
その民族の誇りをカンボジアの人たちが自分たちの手で保存修復できるようにと願って、現地で講義・実習してきた日々を振り返る。

アジアのノーベル賞「マグサイサイ賞」受賞記念出版！
（上智大学アンコール遺跡国際調査団団長）

目次

はじめに

　　第一章　アンコール・ワットとの出会い

　　第二章　カンボジアの悲劇

　　第三章　上智大学アンコール遺跡国際調査団

　　第四章　アンコール・ワットの時代

　　第五章　アンコール・ワットからのメッセージ

　　いまこの五十年を振りかえって

　　【附録】調査団メンバー／現場実習プログラム／研究助成金・公的資金／さまざまなご支援 　

　カンボジアでは一九九三年の和平回復以来、徐々に伝統的な農村風景が再び見られるようになってきました。村の寺院には大きな本堂があり、ここで日常の祭礼が今も陰暦の暦通り執り行われます。境内には僧坊のほかに修行僧のために高床式の小僧坊があります。境内は高い木立で囲まれ、蓮池があります。まったく静寂で、読経の時間を告げる木版を打つ音が聞こえるだけです。こうした境内は、村人にとって静寂黙想の場であり、悟道の入口であるのです。村のお年寄りは本堂にやってきて一日過ごし、掃除を手伝っています。草花を飾ったり、灯明を掲げたり、おしゃべりに花を咲かせ、心身ともに安らいだ悠久の時間を過ごしています。そうした光景を見て、人間の幸せとはいったい何かを考えさせられるのは私だけではないでしょう。